ねぇねぇ、『あの話』って今どうなっているの?
『あの話』って、もしかして遺言控除のことですか?
少し昔の話を出してきましたね。
それでは、本日は遺言控除について解説しましょう。
目次(各項目に飛べます)
遺言控除とは
簡単に表すなら、次のようになります。
遺言書に基づいて遺産を相続した場合に、残された家族の相続税の負担を通常よりも減らせるという仕組み。
ですが、残念なことにこの制度は執筆時点(2023年4月10日現在)において未だ導入されていません。
そもそも、この遺言控除という言葉が出たのは今から8年も前の2015年のこと。
もうそんなに前なんだ!?
日本経済新聞に次のような記事が載りました。
自民党の「家族の絆を守る特命委員会」(古川俊治委員長)は8日、遺言に基づいて遺産を相続すれば残された家族の相続税の負担を減らせる「遺言控除」の新設を要望する方針を固めた。遺言による遺産分割を促し、相続をめぐるトラブルを防ぐ狙いだ。党税制調査会に提案し、2018年までの導入をめざす。(日本経済新聞(2015年7月9日))
続けて、次のような記述も見受けられます。
遺言控除はこの基礎控除に上乗せする形で導入し、課税対象となる遺産の額を減らせるため税負担を軽くできる。
8日の会合で葉梨康弘法務副大臣が制度の概要を説明した。出席者から導入に異論はなかったという。(日本経済新聞(2015年7月9日))
遺言控除の金額
税額から直接控除される『税額控除』ではなく、『基礎控除に上乗せ』される形と公表されました。
議論実施時には基礎控除に上乗せされる金額は数百万円という話が挙がったそうです。
仮にこの金額を500万円とすると、現在の相続税率における相続税の節税額としては、50万円~275万円となると試算されます。
納める相続税が直接減らせる税額控除はインパクトは大きいですが、もし導入された場合に適用される基礎控除の増額も影響は非常に大きいです。
ご存知のとおり、相続財産が基礎控除額(現在は3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えなければ相続税は課せられませんので、基礎控除額という名のボーダーラインは少しでも多いに越したことはありません。
実際に今まで私が担当した相続案件のお客様でも、基礎控除額をギリギリ超えてしまったために相続税申告が必要になった方々も意外と多くいらっしゃいました。
なぜ導入されないのか
遺言控除は、まさに遺言書を書くこと自体が相続税対策になるという仕組みです。
この遺言控除が導入されれば、遺言書を書くご家庭が一定数増えることも予想されます。
遺言書を遺すことで相続人間の争いも減ることや被相続人の財産の範囲も明らかにすることができますので、相続において遺言書の役割はとても大きいです。
上記に加えて、遺言控除が導入されれば相続税の節税になるので早期導入を願いたいですが、未だに導入されていないところを見ると一定の課題があるのだと考えられます。
有効な遺言書という課題
その1つが遺言書の有効性という課題でしょう。
ご存知のとおり、遺言書が発見された場合でも必ずしもその遺言書が有効とは限らないケースがあります。
公正証書遺言以外の自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合には、遺言の要件を満たしていないために遺言書が無効となってしまうケースも充分あります。
そのような場合には遺言控除の適用はできないとされています。
上記のような実務上の課題が残されているため、未だに導入されていないのかもしれません。
ですが、やはり個人的には遺言書(特に公正証書遺言)の作成に一役買うのは間違いないと考えていますので導入して欲しいですね。
若い世代へのスムーズな資産移転、在宅介護の促進
政府・与党が掲げた遺言控除の趣旨です。
①高齢世代に資産が集まっていることから若い世代へのスムーズな資産移転、②在宅介護を促進させて遺言の作成を促すことが期待されるとされています。
しかし、これらには一定の課題もあります。
【①若い世代へのスムーズな資産移転】
遺言控除を適用して遺言書を作成したとしても、資産移転が生じるのは相続発生時であることに加えて、基本的には相続人が財産を承継するため若い世代へのスムーズな資産移転とは言い難いです。
スムーズな資産移転を目指すなら生前贈与が最も有効です。
【②在宅介護を促進させて遺言の作成を促すことが期待される】
在宅介護の促進と遺言の作成率は必ずしも相関しないと考えられます。
むしろ在宅介護を促進することで、家族である相続人の負担は増すことになり、都合の良い遺言の作成を強要させるなどの新たな相続人トラブルが発生することも懸念されます。
遺言控除の議論はポシャってはいないはず…?
遺言控除には上記のような課題もあるので、本導入には慎重的となっている可能性もあります。
はっきりとしたことは分かりませんが、新聞報道から既に8年経過していますので望み的には薄い可能性の方が高いですが、完全に話がなくなったという報道も出ていません。
議論はポシャってはいないと信じたいですね。
まとめ
今回は少し古い話を引っ張ってきましたが、直近の相続税を取り巻く環境で目新しいのは、何と言っても令和5年度税制改正における「生前贈与加算の対象が相続開始前3年以内→7年以内に延長されたこと」です。
生前贈与の今後の主流は『相続時精算課税制度』にシフトするとみられています。
贈与税と相続税は密接に結びついた税金ですので、最終的な納税額を少なくするためのシミュレーションが今後大切になってきます。
弊事務所では1人1人のお客様に真摯に寄り添い、満足度の高い相続税申告やコンサルティングを実施しております。
相続税申告の見積りや初回相談は無料で行っております。
まずは、お問い合わせページからご連絡をお待ちしております。
福岡県那珂川市・春日市の公認会計士・税理士 河鍋 優寛でした。
この記事の執筆者
公認会計士・税理士
大学4年次に公認会計士試験合格後、大手監査法人と税理士法人を経て、河鍋公認会計士・税理士事務所を開業。
資産税(相続税・贈与税・譲渡所得)の実務経験もあることから、会計顧問から資産税までご相談いただけます。
専門分野は会計、税務顧問・IPO支援&相続・事業承継です。