
今回のコラムは「中小企業の親族内承継に関する検討会」についてです。
12月12日に公表された親族内承継の円滑化に向けた検討会の議論の中から、中小企業を取り巻く現状と事業承継税制の評価、今後の検討の方向性について解説いたします。
目次(各項目に飛べます)
現状認識と課題
中小企業は地域社会の成長と安定に不可欠な要であり、長引いたデフレから完全脱却し外貨を含む域外需要も取り込む「稼ぐ力」の向上が時代的な要請として求められています。
このような環境の中、事業承継は経営者の若返りを図り、長期視点での経営革新や成長投資を実現する大きな機会になると考えられます。
しかしながら、中小企業の休廃業は増加傾向にあり、廃業を予定する企業の約3割が後継者不在に起因しています。
事業継続の希望があるにもかかわらず、貴重な経営資源が失われるおそれが高い状況です。
M&Aや内部昇格の割合が高まっているものの、依然として親族内の承継が約3割を占めており、経営者に対するアンケート結果からもそのニーズは高い状況が続いています。
▼詳細は以下のリンクをご確認ください。
(経済産業省)
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/shinzoku/report/20251212report_01.pdf
事業承継税制(特例措置)の評価と課題
平成30年度税制改正にて、団塊の世代の経営者交代を促進するため、10年間の時限措置として事業承継税制の特例措置が創設されました。
これにより、猶予対象株式数の制限撤廃や相続税の納税猶予割合が80%から100%に引き上げられるなど制度の抜本的な拡充が図られました。
特例措置の導入以降、計画の申請件数は大きく増加し、一般措置と比較して格段に利用件数が増加しました。
これは最大約27万人の雇用維持の可能性やマクロ経済へのプラス効果を十分にもたらしたものと考えられています。
また、活用企業では事業承継前から継続して高い水準の賃上げを実施しており、承継後も売上高の増加を継続するなど望ましい効果が生じていることも判明しています。
その一方で、潜在的な活用層と比較すると利用企業はおおよそ25%から33%程度に留まっています。
利用を躊躇する理由としては
「適用期限までの完了が困難」
「提出書類や手続きが煩雑」
「納税猶予が取り消されるリスクがある」
といった声が挙げられています。
特に、納税猶予方式が長期にわたることで将来の不確実性への懸念が生じています。
さらに、成長投資や賃上げの原資となるべき会社の資産を節税対策としての株価圧縮に投じてしまう誘因を生み出しているとの指摘があり、望ましくない企業行動を是正する方策の検討も必要とされています。
今後の検討の方向性
税制
- 猶予のあり方として、現行の「納税猶予」に加え、評価減制度の可能性や、10年間事業継続すれば免除となる工夫の検討
- 雇用確保要件に、人手不足や賃上げの必要性を踏まえた賃上げや企業成長への取り組みを評価する観点の追加検討
- 海外子会社の株式も、税制の対象とすることの検討
- 報告手続きの簡素化の検討
後継者育成
- 「アトツギ甲子園」の継続・拡大
- 承継前に経営者目線で考え実行する機会や実践的な財務・会計知識、事業計画策定プログラムの提供
- 業種を超えた後継者同士やスタートアップを中心とした異分野との交流の場の創出
まとめ
今後の検討は、特例措置の計画申請期限(2026年3月31日)を踏まえ、実態把握やヒアリングを通じて具体的な施策の具体化を進める予定です。
中小企業の円滑な事業承継は、日本経済全体の問題であり、政策的な支援はこれまで以上に重要になっています。

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福岡県春日市・那珂川市の税理士・公認会計士 河鍋 優寛でした。
この記事の執筆者

公認会計士・税理士
大学4年次に公認会計士試験合格後、大手監査法人と税理士法人を経て、河鍋公認会計士・税理士事務所を開業。
資産税(相続税・贈与税・譲渡所得)の実務経験もあることから、会計顧問から資産税までご相談いただけます。
専門分野は会計、税務顧問・IPO支援&相続・事業承継です。