今回は「遺留分」に関するコラムです。
目次(各項目に飛べます)
遺留分に関するトラブルが増加!
近年、相続、贈与に関するトラブルに起因した係争案件が増加していることが報告されています。
特に2024年は、遺留分の侵害やその請求に関する訴訟が増加傾向にあるとのことです。
訴訟内容は生前贈与に関する係争が目立ち、
例えば、ある相続人が他の相続人よりも多くの財産を生前に贈与された場合、他の相続人が遺留分を侵害されていると主張することがあります。
ここで、「遺留分」について整理してみましょう!
【遺留分】
相続において法定相続人に最低限保証される遺産の割合。
被相続人が遺言によって全財産を特定の人に譲渡することを防ぎ、相続人間の公平を保つための制度。
【遺留分が認められる人と割合】
配偶者、子、親などの直系親族に認められ、兄弟姉妹には認められない。
通常、配偶者や子は法定相続分の1/2、親のみが相続人の場合は1/3。
【遺留分侵害額請求】
遺留分を侵害された相続人は、その分を取り戻すために「遺留分侵害額請求」を行うことができる(2019年の民法改正により、「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」に移行)。この制度により、相続人が最低限の財産を確保できるようになっている。
遺留分は兄弟姉妹には認められないため、相続人が「配偶者+兄弟姉妹」や「兄弟姉妹のみ」の場合には遺言書で全額を「配偶者のみ」または「兄弟姉妹のうちの1人」に指定しても全く問題ありません。
子どもがいない家庭も多く、意外とこのようなケースは多いため、遺言書作成は必須といえるでしょう。
遺言書の内容に対する異議も一般的な係争の1つです。
遺言書に記載された内容が特定の相続人に不利である場合、他の相続人が遺留分を請求することができます。
公正証書遺言は法的に最も信頼性が高いものですが、遺言書が公正証書であっても、相続人全員の同意が得られない場合には遺言の内容に対して異議を唱えることが可能です。
公正証書遺言は遺留分が侵害されているかまでは見ないもんね。
もし仮に、公正証書遺言に「遺留分はありません」「遺留分を放棄してくれ」と書いてあっても、遺留分侵害額請求をすることができます。
また、不動産の評価に関する争いもあります。
相続財産の中に不動産が含まれている場合、その評価額が異なることで係争が生じることがあります。
特に、相続人間で不動産の価値に対する見解が異なる場合、遺留分の計算に影響を及ぼし、訴訟に発展することがあります。
さらに、特定の相続人に対する不当な扱いも問題になることがあります。
例えば、故人が特定の相続人にのみ財産を遺贈し、他の相続人を完全に排除した場合、排除された相続人は遺留分を請求する権利があります。
このような場合、遺言の作成過程やその正当性が争点となることが多いです。
事業承継税制の活用と遺留分の問題
事業承継税制は、中小企業の事業承継を円滑に進めるために設けられた税制優遇措置です。
後継者が事業を引き継ぐ際にかかる自社株に係る相続税や贈与税について、一定の条件を満たすことにより納税が猶予または免除される制度で、2019年の大幅改正以降も改正が行われ、より利用しやすい制度となっています。
遺留分との関係
事業承継においては、後継者に経営権を集中させるために、他の相続人よりも多くの株式や資産を承継させるケースがあります。
しかし、これが他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。
事業承継税制を利用して後継者に自社株の生前贈与を行った場合、他の相続人はその贈与が遺留分を侵害していると主張し、遺留分侵害額請求を行うことができます。
この請求は、相続人が受け取るべき遺留分に相当する金額を求めるものであり、裁判所に対して行うことが可能です。
結果として、財産をより多くもらった相続人(後継者)が他の相続人に対して、不足している額を支払う必要が生じます。
そこで問題となるのは、その請求に対して支払う金銭を後継者が持っていない場合です。
そもそも、こうした自社株の生前贈与の納税猶予を行う場合は、その納税資金が不十分であることが要因になっているケースが多いと言えます。
そのため、他の相続人の侵害額を補填する金銭を後継者が有していないケースも多いのです。
その場合、その金銭を捻出できないため、生前贈与した自社株の一部を分配するとなると猶予されていた贈与税の支払いが発生する(納税猶予の取消)リスクが生じます。
このように中小企業の事業を円滑に引き継ぐための税制の特例措置ですが、遺留分侵害額請求権との関係は相続や事業承継において重要な法的問題であり、複雑な問題を抱えていることを理解しておく必要があります。
考えられる対策
遺留分を侵害しないようにするためには、以下のような対策が考えられます。
特に下記の①~③についてはこれらのいずれか1つというわけではなく、組み合わせて行うことをお勧めします。
① 遺言書の作成
事前に遺言書を作成し、遺留分に配慮した分配を明示する。
② 家族内での合意形成
事前に家族全員で話し合い、承継の方針を共有し、書面に残す。
③ 専門家の活用
弁護士や税理士などの専門家に相談し、法的問題をクリアにする。
④ 遺留分(の一部)を放棄してもらう
遺留分は生前に放棄することができる権利です。
間違えやすいけど、「相続放棄」は生前にはできないよ。
そのため、被相続人が存命のうちに遺留分権利者になる可能性がある人に遺留分を放棄させることができます。
ただし、生前に遺留分を放棄させるためには、家庭裁判所の許可が必要です。
そのため、当事者間で念書等を作成しても無効になってしまう点は留意です。
ただし、遺留分を放棄させる側が強く行っても反発されるだけですので、丁寧な交渉や見返りを準備することでスムーズに話し合いを終えるスタンスが大切です。
進め方を間違ってしまうと縁切りに発展するなどの可能性があります。
⑤ 遺留分侵害額請求を見越した預貯金の分配や生命保険の活用を検討する
遺留分侵害額請求を受ける恐れのある相続人等には、預貯金等も分配するようにしましょう。
そうすることによって、請求を受けたときに支払いを行うことができるようになります。
また、生前に十分な資金を準備できない場合には、生命保険に加入して遺留分侵害額請求を受けそうな相続人を受取人にする方法もあります。
生命保険金は、原則として相続財産に含まれず、遺留分の対象にはなりませんので(特定の条件下では遺留分の対象となることがあります)、生命保険を利用して相続人への資産分配を行うことも有効な対策です。
生命保険金はみなし相続財産だよね。
下のコラムも参考にしてみてね!
今回は遺留分に関する問題を整理しました。
遺言書は遺留分まで含めた分配や事前の家族への共有を行って初めて安心材料となるものです。
形式面で不備となってしまうものや、今回のような遺留分の問題に発展することもありますので、事前の対策をしっかりしておくことが相続人の負担を和らげるために重要となります。
遺留分について理解できました!
弊事務所では1人1人のお客様に真摯に寄り添い、満足度の高い相続税申告やコンサルティングを実施しております。
会計・税務顧問や相続税申告のお見積り、初回のご相談は無料で行っております。
まずは、お問い合わせページからご連絡をお待ちしております。
福岡県那珂川市・春日市の公認会計士・税理士 河鍋 優寛でした。
この記事の執筆者
公認会計士・税理士
大学4年次に公認会計士試験合格後、大手監査法人と税理士法人を経て、河鍋公認会計士・税理士事務所を開業。
資産税(相続税・贈与税・譲渡所得)の実務経験もあることから、会計顧問から資産税までご相談いただけます。
専門分野は会計、税務顧問・IPO支援&相続・事業承継です。