相続税の申告って、亡くなった人の財産を網羅的に計上することが大切なんだよね?
財産内容を把握することが難しい財産ってあるの?
はい、あります!
今日は名前から既に理解しづらい「みなし相続財産」を初めての方にも分かるように解説しましょう。
目次(各項目に飛べます)
「みなし」とは
税法の世界では、「みなし」という言葉が度々登場します。
- みなし贈与
- みなし配当
- みなし課税 …etc
この「みなし」という言葉のせいで分かりづらくなってしまっているのですが、
みなしとは「本来○○ではないけど、○○として取り扱う」という意味です。
これを押さえて頂ければ後が分かりやすいです。
例えば1番上の「みなし贈与」は贈与の意図がないため、贈与の定義からは外れますが、贈与があったものとみなして、贈与税の課税がされるということになります。
「みなし相続財産」を分析
それでは上記に照らして、今回のテーマである「みなし相続財産」を見ていきましょう。
みなしとは「本来○○ではないけど、○○として取り扱う」こと。
この意味に照らすと、みなし相続財産は
「本来、相続財産ではないけど、相続財産として取り扱う」ということになります。
相続財産とは、亡くなった人の財産で、相続の対象となるものです(一般的に遺産と呼ばれます)。
代表例は、預貯金・不動産・株式などです。
一方、みなし相続財産は、生命保険金や死亡退職金が代表例です。
これらは相続財産ではないのですが、相続税の計算をするにおいて相続財産として加算されることになります。
相続税の課税対象から外してしまうと相続税の納税を回避することが可能なことから、このような取扱いとされています。
ん?どういうこと?
生命保険金が相続財産にならないとしたら、ほぼすべての財産を生命保険金に変えて相続税から免れようとする人が多発し、課税が不公平になってしまいます。
3,000万円の預貯金があったら相続税がかかるけど、その3,000万円を生命保険金に変えたら相続税がかからないようにできるという抜け穴を防ぐことが趣旨です。
「普通の」相続財産にはない特徴があります
みなし相続財産は、「普通の」相続財産にはない特徴が何点かあります。
それらを順に見ていきましょう。
①生命保険金と死亡退職金には非課税枠がある
みなし相続財産は、生命保険金と死亡退職金以外にもあります。
それぞれの項目と非課税枠についてまとめると、以下のようになります。
みなし相続財産の種類 | 非課税枠 |
---|---|
生命保険金 | 500万円×法定相続人の数 |
死亡退職金 | 500万円×法定相続人の数 |
生命保険契約に関する権利 | 無し |
定期金給付契約に関する権利 | 無し |
保証期間付定期金に関する権利 | 無し |
契約に基づかない定期金に関する権利 | 無し |
代表例である生命保険金と死亡退職金には、非課税枠が設けられていますが、それ以外にはありません。
ちなみに生命保険金を請求すると、剰余金や割戻金などが合算されて入金されることもありますが、これらも生命保険金に含めて非課税枠の適用をすることができます。
被保険者が亡くなった後の受取人の生活のために生命保険に加入するので、生活を保障する趣旨で非課税枠が設けられています。
定期預金として保有するのであれば、非課税枠分の終身保険に加入された方が相続税上は有利になります。
高齢になるにつれて生命保険の加入が難しい場合がありますので、対策は早いに越したことはありませんが、保険料を一括で支払う契約であれば高齢でも加入することができる保険も多いです。
②相続人以外は非課税枠は適用できない
上記でご紹介した非課税枠は、相続人でなければ非課税枠は適用できません。
相続人以外の人が受取人もしくは取得する場合、非課税枠の適用ができないだけでなく、納める相続税が1.2倍になる「2割加算」の対象にもなります。
相続人ではないお孫さんを受取人にされる方も中にはいらっしゃると思いますが、その場合は上記の取扱いになりますので注意が必要です。
また、相続放棄をした人は非課税枠の計算をする際の法定相続人の数には含まれますが、相続放棄した人が生命保険金を受け取った場合は非課税枠を適用できません。
そのため、相続放棄をしたから相続税がかからずに保険金が受け取れるということではなく、受け取った保険金に対して、実は相続税の納税義務が発生するケースもありますので注意が必要です。
③生命保険金は受取人の固有の財産
生命保険金や死亡退職金は受取人の固有の財産ですので、相続放棄をしていても受け取ることができます。
限定承認をした場合も同様で、受け取ることができます。
【限定承認】
相続財産のうちプラスの財産からマイナスの財産を差し引き、プラスの差額があればそれを相続するという方法。
マイナスの財産(借金や債務)もあるけど、プラスの財産も欲しい場合に適用することが考えられます。
表にまとめるとこのようになります。
相続放棄 | 限定承認 |
---|---|
【生命保険金、死亡退職金の受取】 ○ | 【生命保険金、死亡退職金の受取】 ○ |
【相続人の立場】 最初から相続人ではなかったという扱い | 【相続人の立場】 相続人であることに変わりない |
【非課税枠の適用】 × | 【非課税枠の適用】 ○ |
④遺産分割協議の対象にならない
遺産分割協議とはその名のとおり、遺産の分け方について相続人全員で話し合うことです。
遺産分割協議は相続人全員が同意する必要がありますので、全員が同意するまで続きます。
ただし、みなし相続財産は本来の相続財産ではありませんので、遺産分割協議が確定しているかどうかに関わらず生命保険金などを請求して受け取ることが可能です。
自分が受け取る生命保険金の金額を他人に知られたくないというのは当然の心理です。
そのため、遺産分割協議の対象にはならないというのはメリットではあるのですが、
残念ながら、相続税申告書にはみなし相続財産の金額や受取人の氏名を記載をしなければなりません。
非課税枠の中に収まっているかどうかに関係なくです。
つまり、他の相続人に生命保険金の金額について知られてしまいます。
相続税申告が不要であれば申告書がそもそも作られないため、このようなことは生じません。
なるほどね。
生命保険は契約している人も多いだろうから、注意点とかも説明してほしいな。
そうですね。
少々長くなってきたので次のコラムで解説しましょう。
生命保険契約については保険契約者や被保険者、保険金受取人などによっても変わってきますので、次回はその辺を見ていきたいと思います。
弊事務所では1人1人のお客様に真摯に寄り添い、満足度の高い相続税申告やコンサルティングを実施しております。
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福岡県那珂川市・春日市の公認会計士・税理士 河鍋 優寛でした。
この記事の執筆者
公認会計士・税理士
大学4年次に公認会計士試験合格後、大手監査法人と税理士法人を経て、河鍋公認会計士・税理士事務所を開業。
資産税(相続税・贈与税・譲渡所得)の実務経験もあることから、会計顧問から資産税までご相談いただけます。
専門分野は会計、税務顧問・IPO支援&相続・事業承継です。